釧路簡易裁判所 昭和60年(ニ)1号 判決
(抄録)
「第一 再審事由の存否について
<中略>
三 ……民訴法一七一条一項は「送達をなすべき場所において、送達を受くべき者に出会わざるときは、事務員、雇人、又は、同居者にして、事理を弁識するに足るべき知能を具うる者に書類を交付することを得」と規定するが、その趣旨は、送達場所で受送達者本人に送達書類を手渡せない場合に、その場所において、本人と一定の密接な関係ある者に手渡せば、通常の場合、その者を通じて直ちに本人に手渡されるであろうことが予想できるから、その者に送達書類を手渡したときに、受送達者本人に手渡したと同一の効力を生ずるものとしたものと解される。
そうすると、右の者が、送達にかかる事件について、受送達者本人と利害の対立があるなどの特別の事情があって、受送達者本人に送達書類を交付することが期待できず、これを隠匿した場合には、この者は、同法一七一条一項による送達書類を受領する権限はないものと解するのが相当である。
右二で判示した事実によれば、Mは、Xの氏名、印章を冒用して本件立替払契約を締結し、Xに債務を負担させるような結果をもたらしたのであるから、Mには本件支払命令正本をXに交付することを期待しえない特別な事情があり、現にMは、送達を受けた右支払命令正本をXに渡すことなく、前記氏名冒用行為が発覚することを恐れ、故意にこれを隠匿したのであるから、Mは同法一七一条一項の送達書類を受領する権限はなかったものである。
そして、同法一七一条一項のいわゆる補充送達について、書類の交付を受けるべき事務員、雇人、又は同居者は、送達の受領に関し、送達を受くべき者すなわち受送達者本人の法定代理人たる地位を有すると解すべきところ、Mは、前記判示のとおり、本件支払命令正本の送達を受ける権限がなかったから、これは、Xが訴訟上適法に代理せられずという民訴法四二〇条一項三号の事由に該当するものと解する。
第二 再審被告の本案請求の当否について、
本案の請求原因第一項の事実(XとYとの間の立替払契約)はこれを認めるに足りる証拠がない。
よって、Yの本案請求はその余の点について判断するまでもなく失当である。」